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「あたしがいつもびしょびしょに濡れてると思ってるでしょ?」

乱れた息を整えながら、とつぜん彼女が言った。

「そんなことないのよ、好きじゃない人とは。頭の中で、どんなにいやらしい想像をしても、ちっとも濡れないの」

そうして彼女はぼくの首に抱きついた。

「ダンナとは、もう1年に1度あるかないかだけど、ちっとも濡れない」


それで彼女は、ぼくのことがどんなに好きかということを言いたかったのだと思う。

だけどそれは、ぼくにはとても悲しい言葉に響いた。

永遠の愛なんて、ない。
同じことは何度でもくりかえす。
人間は何度でも愛を求め、奪い、忘れ、また求める。
そこにはいったい何の意味があるのか。

ぼくは彼女に背を向けて、声を出さずに少し泣いた。
すぐに彼女は自分が間違ったことを言ったことに気づき、ぼくの背中にしがみついた。

彼女も声を出さずに泣いたが、ぼくよりもよっぽど大きくしゃくり上げ、ぼくらのベッドは小刻みに震えた。震える声で彼女は「あたしたち、やっぱり最悪の組み合わせだね」と言った。
それがとてもかわいそうだったので、ぼくは彼女のほうを向き、やっとの思いで「次はずっと好きでいられればいいけど」と言った。

彼女はもっと泣いてしまった。


だからぼくはこんな話をした。

この前ふたりで高尾山に行ったとき、山頂から二人で笑いながら走って下りたことがあった。
ぼくが前の奥さんとの最初のデートで高尾山に行ったことがあるというのは話したと思うけれど、下りる途中の見晴らしのいいところを通っていて、まさに何年か前のその場所で、ぼくは前の奥さんと初めて手をつないだことを思い出してしまったんだ。
ちょっと嫌な気分になったけど、でも今度は同じ場所をぼくらがふたりで笑いながら走っている。
ぼくがもし次に同じ場所を通ることがあれば、思い出すのはきっとバカみたいに笑って駆け下りたぼくらの思い出だろう。
過去の記憶は、新しい思い出に塗りつぶされる。ぼくのいろんな過去の傷は、ふたりでいると塗り替えられていくんだ。

彼女はまた泣いて、それから話した。

ふたりで高尾山に行って、あたしもいやな記憶がひとつ塗り替えられたんだよ。
あたしにも、塗りつぶさないといけない記憶がたくさんある。まだ話せないこともあるけど。
浅草寺に行かなきゃ。京都にも。タイにも。それと、行ったことないけど、ベトナムにも行ってみたいの。イタリアにも行きたいでしょ?


そんなにいっぺんに行けるかい、とぼくは答え、ふたりで泣きながら笑った。

ぼくらはたくさんの傷を抱えていて、これからもたくさんの傷をつくる。
ふたりで少しずつ新しい思い出をつくり、傷を乗り越えていければいい。


ぼくは立ち上がり、服を着て夕ごはんを作った。



■アスパラガスとパンチェッタのスパゲティ

1.パンチェッタは5ミリ角にカットして水にさらし、キッチンペーパーで水気を拭き取る。アスパラガスは2〜3センチの小口切りにする。
2.フライパンに薄くオリーブオイルをひき、パンチェッタを弱〜中火でじっくり炒める。
3.鍋に湯を沸かし、塩を入れてスパゲティを茹でる。途中でざるに入れたアスパラガスをいっしょに茹でる。
4.パンチェッタの油が出きったらいったん火を止め、フライパンに白ワインを少量入れて混ぜる。フライパンの底にこびり付いたパンチェッタのうまみをワインに溶かすように。
5.再度火を点けざる上げしたアスパラガスを入れ、パンチェッタに水分を戻すように軽く炒めてバター・醤油を加える。パスタのゆで汁を加えて味を整える。
6.フライパンにスパゲティを入れて絡め、皿に盛る。

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